「恐ろしき四月馬鹿」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

どうしてもぎこちなくなります。

「恐ろしき四月馬鹿」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
　　短篇コレクション①」）柏書房

「恐ろしきエイプリル･フール」
（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説選Ⅰ」）論創社

「恐ろしき四月馬鹿」
（横溝正史）角川文庫

中学校の寄宿舎の
一室に寝ていた葉山は
夜中に目覚め、驚いた。
同室の栗岡が血のついた短刀を
行李の中に隠していたのだ。
翌日、他の部屋の学生･小崎が
何者かに殺害された
跡が見つかる。
部屋には激しい格闘の跡と
多量の血痕が…。

表題もどことなくぎこちないのですが、
内容もどこかぎこちない作品です。
それもそのはず、
本作品は大正10年に
横溝正史が18歳という若さで
発表した作品なのです。
本作品はそのできばえを
とやかく言わずに、
横溝正史に敬意を表しながら、
そのぎこちなさを楽しむべき作品と
心得ます。

1 恐ろしき四月馬鹿

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【主要登場人物】
※名前を与えられた登場人物はすべて
　M中学校生徒。
葉山
…同室の栗岡の怪しげな挙動を目撃。
小崎
…殺害されたらしい。
栗岡
…殺人の嫌疑をかけられる。
速水
…陪審官を辞退した優等生。

ネタバレしても
どうということはないでしょう。
エイプリルフールから分かるように
悪戯とだまし合いなのです。
殺人事件は起きていません。

横溝正史探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

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本作品のぎこちなさ①
なぜ葉山は起きない？
悪戯の仕掛け人である
栗岡の不審な行動に対して、
葉山がなぜ目を覚まして
問い詰めないのか、不思議です。
そもそも、
葉山を巻き込むにしては
a:葉山が目を覚まさなければ
　意味をなさない
b:葉山が目を覚まして
　騒ぎ立てた段階で計画は水泡に帰す
という、2つの変数が生じるのです。
手の込んだ悪戯にしては、
不確定要素を抱え込みすぎです。

本作品のぎこちなさ②
警察に届けないのはなぜ？
殺人(らしい)事件が
起きたにもかかわらず、
寄宿舎の責任者である舎監は
警察に通報せず、
寄宿舎内で7人の
学生陪審員を任命しての
即決裁判を行います。
当時の日本に
そのような制度はありません。
宮部みゆきのベストセラー
｢ソロモンの偽証｣を上回る
近未来的設定です。

本作品のぎこちなさ③
死体はどうなった？
栗岡と小崎の狂言に
いち早く気付いた速水が、
逆に栗岡をはめます。
そのために｢小崎の死体が
古井戸の中から見つかった｣と
大騒ぎします。
しかし死体は見つかるはずがありません。
小崎は生きているのですから。
そうすると7人の陪審員と舎監が
速水と結託していなければ
裁判の続きが行えないはずです。
ところがそのような描写はありません。

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架空や仮定の部分が多すぎるので、
どうしてもぎこちなくなります。
これでは現代の物差しでは
及第点はもらえないでしょう。
しかし、本作品は
江戸川乱歩のデビューより
約2年先駆けて
弱冠18歳の横溝が、
日本ミステリー界に鮮烈に登場した
記念碑的作品なのです。
できがどうのこうのではありません。
ここから乱歩･横溝二大巨頭時代が
始まったことを、
感慨深く味わうだけです。

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